ようこそ~訪問介護の世界へ
「楽しい!美味しい!うれしい!そして、時々、悲しい、寂しい、つらい」自分は自分でいいんだって、お互いに思えること
小規模多機能いつでもどうぞ 代表 三枝公一
「いつまでも自宅で暮らし続けたい」~「想い」をうけとめること
90歳代の山田さん(仮名)は、平屋で一人暮らしをしています。
玄関を開け、中に入ると右手に障子戸があり、その奥に布団を敷いて寝ています。若い頃は畳職人で、出会った頃には「お前の家の畳は俺がやってやる」と職人の顔で言ってくれました。畳職人だった頃の手入れのされた年季の入った道具は、もうずいぶん長い間使われていませんが、今も奥の部屋に大切に置いてあります。
日頃から朗らかな山田さんは、「自称マジシャン」で、いつもマジック道具を持ち歩き、その場で披露してくれて、本人は「プロ級の腕前だ」と言い、人を楽しませることが得意です。
そんな元気だった山田さんが、春過ぎごろから転ぶことが多くなり、少しずつ歩けなくなって、認知症も深まり始めました。
全身の動きも悪くなってきて、体調が非常に悪くなり、入所施設の方が安心なのではないかという話が支援にあたる職員の間でも出てきました。
あらためて、山田さんに聴くと「おれは家にいたい」という思いを話されました。食事は日に日に細くなっていき、バランスの良い食事を食べてもらう方が良いのではないかという迷いもありましたが、本人が「食べたい」ものを食べて最後を迎えてもらいたいという姿勢で、食事について一緒に考えることにしました。
山田さんの好物は、ジャムパンとマグロの赤身で、元気な頃は町内にあるスーパーまでバスを乗り継いで、買いにいかれるような方でした。
そこで、朝はジャムパン、昼夜は大好きだったマグロの赤身を当面の間、召し上がっていただきました。歩くことはできませんが、その後調子が戻り、車いすを利用して私たちの「いつでもどうぞ」小規模多機能居宅介護(以下「いつでもどうぞ」)に通うことが出来るようになりました。今では利用する方々と同じ食事を召し上がることができるようになり、ご自宅では今でも大好きなジャムパンとまぐろの食事を楽しんでいます。
本人と「一緒に考える」こと
いつまでも「自宅で暮らし続けたい」は、元気な時に聞いていました。そして今も、歩けなくなろうと、認知症が深まっていこうと「自宅で暮らす」ことへの思いは変わりません。本人が諦めない限り私たちも諦めません。在宅診療にして、朝昼夕の訪問での食事提供と排泄の介助、週3回は入浴の機会を確保するため、「いつでもどうぞ」を利用されています。
介護用ベッドを自宅に入れれば介助はしやすくなるのだろうけれども、これまでベッドに寝る習慣のなかった山田さんにとっては、敷布団にして畳の上で寝ることが自然です。
少しずつ身体が弱くなってきて、ひとりでいる時間、どんな景色を見て過ごしているのだろうと、本人の布団の隣りで、横になってみます。
ご本人の寝床から見える茶色い天井は、もう何十年も見続けている景色です。寝床から見えるこの景色をなんとかそのままに、住み続けることができるよう、我々介護福祉の専門職は知識と技術を駆使して考え続けます。
しかしながら、その知識があればあるほど、経験を積めば積むほど、先の「リスク」が見えてしまい、回避することを優先してしまう。安心・安全を盾に、本人も支援者自身も危険と思われる方に落ちないように、いわゆるガードレール型の支援方法を採用してしまうことがあるでしょう。
介護福祉の専門職は、演出家や監督のように、ご本人の生き方や人生までを管理できるものではありません。
ご本人が「どう生きたいか」を支えることを中心に、本人が望む生活や暮らしを選択していけるように、専門的な知識と技術を使いながら、黒子として支えていくという、セーフティネット型の支援が、本人の想い、意向を大事にした支援には求められています。
しかしながら、介護福祉の専門職は、その経験や知識があることで、迷い、時に振り回され、この支援で良いのかどうか悩み続けます。
しかしそれでいいのです。そんな時こそ、本人が主体的に生きることを邪魔しないで、その人らしく生活するにはどうしたらいいかを考え続けることが大事なのではないでしょうか。
「私らしく生きる」こと支え続ける黒子役として~介護福祉の専門職の魅力
介護福祉の専門的な知識や技術が本人の想いの達成に使われることが専門職としての魅力です。介護福祉の専門職は、その時、その場所で本人と一緒になって考え、本人の想いを実践の中でつないでいくことで、在宅でも施設でも、どこにいても本人の想いが継続されている関わりに、喜びと誇りを感じることができるのです。
私も日々の支援の中で、迷うこと、立ち止まることはあります。
「これで本当に良いのだろうか」「もっと安全な方法があるのではないか」
そんな思いに揺れることは、決して特別なことではありません。むしろそれは、目の前の一人の人、人生に向き合っている証です。うまくかわそうとしないでください。
また、介護をするにあたり、すべてのリスクをなくすことはできません。
けれど、その人が「どう生きたいか」に寄り添い、その想いを実現しようと考え続けることはできます。
安全を守ることも大切。でもそれと同じくらい、あるいはそれ以上にその人らしさを守ることも大切です。
山田さんの場合、畳の上で眠りたいという思い。好きなものを食べたいという願い。見慣れた天井を見ながら過ごす時間。それらは、山田さんが積み重ねてきた人生そのものです。
私たちの役割は、その人生を管理(コントロール)することではなく、その人らしく生き続けることを、そっと支える立場であること。
迷いながらでいいのです。悩み続けていいのです。むしろ迷いや悩みが大切です。
その一つひとつの葛藤が、支援の質を高め、誰かの「自分らしい人生」を支えていると信じています。
介護に携わっているみなさん!どうか自信を持ってください。あなたの関わりは、確かにその人の人生を豊かにしていると同時に自らの人生も豊かにしているはずです。
今日も、誰かの「生きたい」を支えているあなたへ。心からの敬意とエールを送ります。
小規模多機能居宅介護は・・・
小規模多機能型居宅介護は、利用者が可能な限り自立した日常生活を送ることができるよう、利用者の選択に応じて、施設への「通い」を中心として、短期間の「宿泊」や利用者の自宅への「訪問」を組合せ、家庭的な環境と地域住民との交流の下で日常生活上の支援や機能訓練を行います。(厚生労働省ホームページから)
●厚生労働省HPhttps://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/publish/group11.html
